台地と谷が交互に連なる文京区の地形。台地に降り注ぐ雨は地下に浸透し、谷との境界をなす傾斜面から湧出する。その湧水を海原の源流に見立て、池水に小島が浮かぶ日本庭園として作庭されたものが千駄木・須藤公園の原型である。
江戸時代の加賀支藩屋敷をルーツとする約5000m2の回遊式庭園は、高低差のある地形と湧水が巧みに生かされ、繁茂する庭木に囲まれるように豊富な池水をたたえている。水辺を自由に回遊できる園路をもつ庭園は貴重な憩いの場として区民に提供されている。
災害時、この池水は有効に利用される可能性が高い。一方でそれは「水」と私たちの生活との関係を見つめ直させてくれる装置にもなり得るかもしれない。
台地への雨水の浸透が促進されれば、滝の流量が増す。また、雨水の浸透は下流河川の水量を軽減すると共に、蒸散効果により、まちの冷却化にも効果が期待できる。
私たちの生活に恩恵をもたらす、この「水」の循環は、文京区独特の地形がもたらしているのだといえそうだ。
さらにいえば、そもそも「水」の循環には「重力」が深く関係している。この「重力」をニーチェは人間が抗せねばならない「力」として表現した。下方に流れる液体、大気に還る気体、に変化する「水」は、重力の精(Guist)として、この庭の池水に象徴化されて表現されているのだといえるのかもしれない。 (米田正彦)