レッドマップ | まちを変える「ちから」 -防災と景観-


執筆:米田正彦


文京レッドマップ
発行日:平成26年(2014)12月5日発行
発行者:文京建築会

 ベアトが見た幕末の江戸、記録に残された震災と戦災、そして、現代の東京。私たちの脳裏には、この都市が百数十年のうちに目まぐるしくその姿を変えてきたように映る。政治体制の転換、技術革新、震災、戦災、経済の変化など、変貌してゆく都市の歴史を俯瞰するとき、そこには常にある原因、まちを変えるダイナミックな「力」が存在していたことに気付く。ここではその「力」を「レッド」という色彩のイメージに託したいと思う。

 このまち(街区)では、建物の耐震化とまちの防災化が喫緊の課題だ。また、まちの景観を整えてゆくことも重要である。しかし、これらの課題はなかなか改善されない。この項では、まちを改善してゆくための試案を示すことにしたい。

 建物が密集するこのまちは、敷地と道路の境界のように、モノとモノの境界がはっきりしない。「曖昧」さがまちを支配する理由は、土地の減少など経済的理由のほかに、境界の「曖昧」さが、自然で自由な居住環境として、住民に肯定的に受け入れられている側面があることも否定できない。

 このまち固有の特徴である「曖昧」さ。この言葉にはモノとモノ、そして、それらの境界という三つの意味が含まれる。つまり、「曖昧」という言葉は複数の意味に分節または展開できるが、一つの意味としても許容されているといえよう。この語の性格から、具体的な応用を考える。

 最初にまず、自分の住む家を含むまちを改善することについて、「イエス」、「ノー」、「どちらでもない」という三つの選択肢を住民がもつ。この段階では、選択について「曖昧」さが許容された状態である。

 その後、まちが改善されるという同意を引き出すまで、住民にとって意味のある価値=「力」を徐々に高めてゆく。 価値の源となるものは何だろうか?ここでは、人々の認識を変える主な価値を、仮に「経済」だと仮定してみよう。具体的には、許容建築容積の増や、建築の耐震不燃化、道路の拡張があげられる。また、このまちに経済的な仮想の境界を設定し、将来にわたり経済的に自立するという条件を設定する。

 周辺の歴史的建造物をつなぐ(A低層棟街区・緑化地区)と、主要な居住地域としての(B中高層棟街区)、そして、まちを全体の容積と将来を見据えた経済を満たすような(C高層棟街区)の3つの地域に分ける。

 これらの地域に現在居住する住民は自由な選択の権利をもつ。そして、計画が終了するまで価値の選択と調整のイテレーション(反復)が実行される。

その結果、グローバル都市の中核地の一つとして、空港を結ぶ結節点という立地を生かした街区が再構成される。建築はすべて地中深い堅固な地盤に支持され、防災活動に有効な計画道路は地下化して実現する。

 「曖昧」という言葉の意味を展開し、選択という思考の行為に導き、さらに改善を促進するための「力」として経済的関数を加え、新しいまちが形成されてゆく。

その結果、新しく生まれ変わるまちは、今考えられている時間と空間を大きく拡張した範囲でとらえ、反映されて創りだされるものなのだ。(米田正彦)

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